第ニ章 安心そして恐怖
秋留の住む村は二人が倒れていた場所から歩いて二十分程度の所だった。
村に到着するまでの間、ボウストは「なぜ真夜中に森を歩いていたのか」と秋留に訊ねた。
「変わってると思われるかもしれませんが、私は……夜の散歩が好きなんです」
予想しない返事にボウストは目を丸くした。
「こんな魔族が横行するような森に、夜に、しかも一人で? 信じられない! 死にたいのかっ?」
ボウストは声を荒げて、秋留に詰め寄った。
「いいえ、夜が好きなんです。空に瞬く満天の星々や、月光の……」
今度はボウストが遮る番だった。
「何が、星だ! 何が月だっ! 魔族がいるんだぞ! あいつらは、人間を餌としか思っていない。お前はさっきも危うく喰われるところだったじゃないか!」
秋留の軽はずみな行動がボウストには理解出来なかった。
ボウストにとって死は、何事にも勝る恐怖なのだ。その死へ自ら近づいて行こうとする秋留は、到底ボウストの理解出来る存在ではない。
「私は、魔族に脅かされる生活はイヤです! 村に居ても森に居ても、魔族に出会えば殺される事実は変わりません。それなら、自分のやりたい事をしたい。自分の行きたい所に行き、自分のしたい事をする! 駄目……ですか……?」
語尾が弱弱しくなる。秋留も、怖いのだ。
確かに、どこに居ようが魔族に会えば殺されるだろう。
だが、村に居るよりは、森に居る方が魔族に出会う確率は高い。それを踏まえた上で、夜に森に居るという暴挙に出ているのだ。正気の沙汰とは思えない。
でも、一部で納得できる何かがある。
「自分のやりたいように生きる」
一見身勝手なようで、しかし、このご時世に生きていく上で最も難しい行為だ。
やりたいようにしていたら死が早まるのだから。
「まぁ、いい。どう生きようが自分の勝手だ」
そう言いつつも、ボウストは秋留の事を少しだけ見直していた。この華奢な身体に、意外に豪気な精神が宿っているのが見えたからだ。
死に対して無闇に怯えるのではなく、死を理解した上で力に換えている、そんな印象を受けた。
「ふふ、いいんです。村でも変わり者扱いされてますから……」
秋留は、少々照れながら言った。
「まぁ、普通はそうだろうな」
「どうせ、変人です〜」
そう言って頬を膨らませる仕草が何とも子供っぽい。
やがて二人は村へ着いた。
「あ、あそこに見えるのが私の生まれ育った村、雫沫です。亜細李亜大陸の中でも、一、二を争う程平和な村だと思いますよ」
雫沫は平和というより、寂れた村だった。
簡素な軒並み。家庭菜園ではないであろう、畑や田んぼ。
実際雫沫は他の村との交流が殆どない、自給自足的な村だった。
静かというよりは、活気がないと言った方が正しいだろう。今は確かに夜ではあるが、ここまで静かだと誰も住んでいないかのようだ。
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