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Degrade
第三章 旅立ち

「そんなのってないよ!」
 春菜の声が狭い部屋に響き渡った。
 あの戦いの後、傷を負ったものは村に唯一の病院へ皆担ぎ込まれた。
 一番重症だった春菜も、秋留の応急処置が効いて今はピンピンしている。ボウストや秋留、他の村人達も、司祭の力によって傷が癒されていた。
 秋留達の家の一室で、村長と春菜と秋留は向き合って座っていた。
「春菜……」
「秋留は、分かっておるな?」
 村長は静かにそう言った。
「……はい」
 秋留も静かに応えた。
「そんなっ! 秋留お姉ちゃんまでっ!」
 春菜は一人怒鳴っていた。
「春菜、仕方のないことなのよ。私は皆の前で言霊を使ってしまったのだから……」
「魔女って言うのっ? 秋留お姉ちゃんは皆を助けたのに。助けるために戦ったのに!」
 雫沫では言霊は忌むべき力。魔女の証。村長は村の存続を考えて秋留を追放しようとしているのだ。
「春菜、誰もそんな事は思っとりゃせんよ。ただ……、しきたりなのじゃ」
「そんなしきたりなんていらないっ!」
 だだっ子の様に春菜が泣き叫ぶ。
 言霊が使えるとは言え、たかだか十七の小娘に何ができるであろう? 村を出て、生き残れる可能性は少ない。
「言霊は穢れの証。言葉に魔を宿らせ、人を、自然を操る。大きな言葉の代償は、全て自分に降りかかる。危険な力じゃ……」
 秋留には物心ついた時からこの力があった。面白がって母に見せたら、怒りながら泣いていたのを覚えている。
 (どうして……どうして? 秋留は普通の女の子なのに……。秋留、その力は使っちゃダメ! 分かる? 危険な力なの。人に見せちゃいけない力なのよ!)
 母は夜通し秋留に言って聞かせた。
 秋留は、母の剣幕に押され訳も分からず頷くだけだった。
「春菜、よしなさい。冒険者になるのが少し早くなっただけだよ」
 秋留は春菜に優しく話し掛ける。
 春菜を置いて一人で出て行く事、春菜に寂しい思いをさせてしまう事。二人っきりで生活してきたのだ。人一倍別れがツライ。
「秋留お姉ちゃん……」
 春菜も覚悟は出来ていた。ボウストに秋留を連れて行くことを頼みもした。でも、こういう別れじゃない。想像していたのは、こういう別れじゃない!
「もう、村には戻れないの? 魔女だから、村には住めないの?」
 春菜は村長に問う。涙で頬を濡らしながら。
「ひとつだけ、方法はある。じゃが、秋留は選ばないじゃろう」
「何? 方法って何っ?」
 秋留には予想がついていた。すなわち、
「魔力を捨てる事じゃ」
「魔力を……捨てる……?」
「お前らの母がぃるガイア教会本部で、そうぃう事ができると聞ぃた事がある」
 秋留が魔力を捨てるという事は、冒険者になるのを諦めるという事。秋留の細腕では到底戦士や剣士にはなれそうにない。魔力もなく、力もない女が簡単に生きていける世界ではないのだ。
「私には、……できない……。

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