小説家になろう
Degrade
第五章 決戦

 ボウストはコーヒーの香りで目が覚めた。
 身体の節々が痛いが、動けないほどではない。むしろ、戦闘直後の状態よりは全然ラクだった。
 ここはどこだ?
 丸太を組んで作った家……と言うよりは、小屋のような物だろう。木々の隙間から入る風が冷たい。
 確か人に会って……。
 そうだ! 今はどのくらいなのだ? 昼までに頂上に向かわなくては、秋留を救うどころではない。ボウストは内心焦って飛び起きた。
 窓のないこの部屋からは、外がどうなっているのかが分からない。丸太の隙間から入る日差しだけでは、ボウストには今がどれくらいの時間なのかが想像つかなかった。
 ボウストは唯一の出口に小走りに向かった。ドアノブを音を立てて回す。
 途端にコーヒーの匂いが漂った。
「ちくしょう、どうなってやがる? 誰だよ俺んちを荒らしたのはっ!」
 目の前ではカップを片手に先程山で会った奴が怒鳴っていた。
「今、何時だ?」
 ボウストはこの場所や目の前で怒る人間の事より、時間が気になっていた。秋留のことが気に掛かる。
「ったく、砂糖もありゃしねぇ……」
 目の前の男は、答える代わりにボウストの後ろを指で指した。男の視線を指で辿る。旧式の振り子時計がそこには掛かっていた。
 十時四十一分。
 ボウストは小さな溜息をついた。
「あんた、魔族がどうのとか言ってたが、どうして頂上に行きたいんだ?」
 真っ黒な色をしたコーヒーが、目の前に差し出される。
「連れの少女が魔族に攫われたんだ。昼までに頂上に行かないと……」
「殺すってか?」
 かぁー、あんたも変なことに巻き込まれたもんだ。
 男は心底面倒くさそうに言った。
「頂上まではどのくらいだ?」
 ボウストは二番目に気になっていた事を聞いた。
 頂上までの距離が長ければ、こんな所でゆっくりしている暇はない。ボウストはもう一度時計を見た。
「残念だったな……」
 言って男はコーヒーを一口飲んだ。
「ここはもう、ほぼ頂上だぜ。火口まではニ、三分ってところさ」
 ニヤリと口の端だけを上げて男が笑った。
 張り詰めていた気が一気に抜ける。
「ふぅ……助かったよ」
 ボウストは素直に礼を述べてコーヒーを口に含んだ。砂糖の入っていないコーヒーは苦く、熱い液体が胃に染み渡る。
「ボウストって言ったっけ? そんなボロボロで、その……大丈夫なのか?」
 魔族に攫われた娘を助けると言う事は、魔族と戦う事に等しい。
 男の見た限りではボウストは、傷だらけのようだ。運んだ時に気づいたが、腕も一本ない。
「魔族とはつくづく縁があるからな……」
 そう言って自分も口端で笑う。
「くくっ! そんな縁、俺はいらんがな」
「あんたはどうしてこんな所にいるんだ?」
 大金鎚を振り回して山の中を歩いている大男なんて、滅多に見かけるものではない。
「俺か? ……俺は奈良樹。

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