小説家になろう
盗賊ブレイブ@海賊の犬
プロローグ

「ウオオオオオオン」
「ヒヒヒーン」
 砂浜を走り回る二匹の獣。
 海に浮かぶ小さな島、デズリーアイランドは十一月に入ったというのに十分に暖かい。この気候ならまだまだ海で泳いだり砂浜でバーベキューをしたりしても問題無さそうだ。
 それにしても……。
 この島に着いてからあの二匹は走り続けている。確かに約一週間ぶりの大地に俺も感動しているわけだが、奴らは元気が良過ぎる。
「さっきまで船酔いに苦しんでいたとは思えないハシャギっぷりだよね」
 隣で砂浜に転がっている貝殻を集めているのは幻想士の秋留だ。
 幻想士は不思議な動きや呪文で相手を惑わす事が出来る。詳しい事は全然知らないが、人の気持ちを落ち着かせたり操ったり出来る便利な術があるようだ。
 ただし、俺にとっては秋留の事を見ているだけで気持ちが落ち着かなくなる。それ程に秋留の容姿は素晴らしい。幻想士とはまるで秋留のためにある職業のようだ。
 太陽の下で輝くピンク色の髪、透き通るような肌、強い日差しにより上気した頬、短めのスカートから覗く魅惑的な太腿……。
「いたっ!」
 突然俺の頬に鋭い痛みが走った。
「また変なこと考えてたでしょ?」
 秋留が白い眼をして言う。秋留が背中に装備している真っ赤なマントが風もないのに大きく揺れた。
 秋留の巧みな話術により手懐けられたモンスター、ブラッドマントのブラドーだ。
 こいつは主人である秋留を守るためなら同じパーティーの仲間ですら攻撃してくる危険な奴だ。俺が秋留に対して邪な考えを巡らせていると途端に襲い掛かってくる。想像くらい自由にさせてくれてもいいのに、ブラドーはそれさえも許してくれない。というか、なぜ俺が邪な考えをしている事がバレるのか不思議でしょうがない。
『顔に出てるんだよ』
 最近秋留に言われた台詞だ。今度秋留の事を考えながら鏡を見てみよう。
「おや? この頬の傷はどうしたのですかな?」
 荷物を持った初老の男が俺の隣に来て言った。
 パッと見は五十歳くらいだろうか。淡い水色の鎧を上品に着こなしているが、その身体から漂うオーラはなぜかドス黒い。俺達若いパーティーの保護者的な存在である聖騎士のジェットだ。
「は〜っくしょい!」
 ジェットが豪快なクシャミをする。
 船旅の最中に海に転落して以来、ジェットは風邪を引いている。年寄りの病気は長引くからなぁ……、と普通なら考えるのだがジェットの場合は別だ。
「ゾンビなのに風邪引くなんてオカシイよなぁ?」
 小声で隣の秋留に聞いたが苦笑いが返された。
 ジェットはゾンビなのだ。聖騎士なのにゾンビとはチグハグな感じがする。
 更に衝撃的な事実としては、可愛い顔をしたこの秋留がジェットをゾンビとして復活させた張本人だという事だ。秋留は魔法を基本とした数々の職業に就いた事がある。

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