小説家になろう
四精霊の伝説
第2部 つかの間の交叉
c r o s s i n g

(1)

 リィルはバートを探してピアン王宮内を歩き回っていた。今のピアン王宮はガルディアの手に落ちている。自分がこうして歩き回るには危険といっちゃあ危険なのだが、ガルディアの誰かと鉢合わせしたってまあ何とかなるだろう、とリィルは楽観的に考えていた。
 バートが寝ているとユーリアに教えてもらった医務室は何故かからだった。なんで部屋で大人しくしてないんだよ、手間ばっかかけさせやがって、とリィルは自分のことは棚に上げて思っていた。しかしリィルはバートの身体のことも心配していたのだ。バートは自分と違って今動き回れるような状態ケガではなかったはずなのだ。
 そんなことを考えながらひとりで王宮内の廊下を歩いていたリィルは、ある扉の前で、突然ぴたりと足を止めてしまっていた。
(え?)
 扉の向こうの話し声が耳に届いたのだった。一瞬耳を疑う。……すごいことを聞いてしまったぞ、と思った。本当だとしたら、大変なことだ。どうする? どうしよう……そんなことを頭フル回転で考えながら呆然と立ち尽くしていると、扉が開いた。リィルは驚いて一歩後ずさった。
 中からガルディアの軍服に身を包んだ二人――男性と女性だった――が現れた。二人ともリィルと目が合って立ち止まった。しまった、とリィルは思った。男性の方は見知った顔だった。赤い長髪に眼鏡をかけた――
(アビエス!)
 リィルと目が合ってアビエスはにっこりと微笑んだ。
「おや。貴方は」
「知ってるの? アビエス」
 女がアビエスを見て言った。女も赤い髪をしていた。ふわふわのウェーヴヘアが肩にかかっている。つりあがった目にきつい顔立ち。真っ赤に塗った唇。ガルディアの軍服に身を包み、腰のベルトには何本もの短剣を挿していた。
「ええ」とアビエスはうなずいた。
「『彼』には三人の子供がいると言ったでしょう。長女と、長男と、次男と――」
「じゃあ、もうひとりのエニィルの息子?」
 女は甲高い声を上げた。
「何でこんなところに? アンタもしかして、今の聞いてた?」
「い、今の……というと?」
 とっさにリィルはとぼけてみせた。でも、この女はどうか知らないが、アビエスは騙せないかもしれない。
「ま、どっちでも良いわ」
 女は真っ赤な唇でにやりと笑った。腰の短剣を一本抜く。
「殺っちゃって良いかしら? アビエス」
「口封じ、ですか」
「そうよ。今の話聞かれたからには生かして帰せないでしょ」
「でも、息子が殺されたと知ったら、エニィルはますます口を閉ざすでしょうね」
「知ったこっちゃないわ」女は眉を吊り上げた。
「むかつくのよアイツ。カズナ様に向かってあのふてぶてしい態度! 何様のつもり? 息子二人いるんだもの、一人くらい殺っちゃえば良いんだわ。少しは思い知るでしょうよ!」

     

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