小説家になろう
四精霊の伝説
第3部 動き始めた伝説
北 へ 、再 び

(1)

「ファオミン……だっけ? まだ、生きてる?」
 自分の名前を呼ぶ女の声が聞こえてファオミンはゆっくりと目を開けた。薄暗い、じめじめとした空間だった。固い床に横たわっていた。
 鉄格子の向こう側で、見知らぬ女が灯りを掲げて立っていた。
 ファオミンはぼんやりとした頭で記憶を手繰たぐった。ピアン王を暗殺するためにリンツに向かい……待ち構えていたピアン王女に傷を負わせて……自らも傷を負い……毒で……
 ああ、自分は捕まったのか、とファオミンは思った。傷を負わせたピアン王女は、死んだのだろうか。
 見知らぬ女は格子越しに何かを差し出してきた。
「……?」
「私はどっちでも良かったんだけどね、エンリ君がどうしてもって言うから。あ、エンリ君ってのは知り合いの医者ね。彼が言うには、医者として、助かる手段があるのに見殺しにはできないって。たとえ敵でも。……ピアン王女を殺そうとした者でも」
「…………」
 殺そうと、という言葉が引っかかった。ということは、王女は、死んではいない……?
 女はファオミンの返事を待たずに語り続けた。
「サラちゃん……ピアン王女は、明らかに敵である貴女と、『話』をしようとしたんですってね。それで、ちょっと油断しちゃったのね。フフ、うちのピアン王女は強いわよ。アンタなんかにそう簡単に殺られるサラちゃんじゃないわ」
「…………」
 ファオミンは一方的に喋る女の顔をまじまじと見つめた。ショートカットの女性で、年齢は三十代くらいだろうか。差し出す右手には、小さな瓶が握られている。
「どうしたの? 要らないの? 解毒薬よ。まだ死にたくはないでしょう?」
「……わたくしは……」
 ファオミンは女をきっ、と睨みつけた。
「命なんて、惜しく、ないわ……! あの方の……枷になるくらいだったら、わたくしは、ここで、死を選ぶ……わ」
「……枷?」
 女は真顔で聞き返してきた。
「枷って何? まさか『クラリス』が危険を冒してあんたを助けに来るとか、そういう意味で?」
「……!」
 ファオミンははっとした。自分は『あの方』としか言っていないのに、この女はすぐに『クラリス』の名前を出した。この女は、一体……。
「そんなことするわけないじゃない、『クラリス』が。枷だなんて……。はっきり言って、クラリスはアンタなんか全く眼中にないわよ。だから安心して生きていれば良いわ」
「……随分と、余裕なのね……」
 ファオミンは自虐的に笑った。
「なあに、わたくしに精神的ダメージを与えに来たってわけ……? ユーリア……さん?」
 それを聞いてユーリアも笑った。……何故か、少し寂しそうに。
「んー。そういう思いも無くは無かったんだけどね……でもね。私はどっちかって言うと貴女の『同志』よ。それで、少しは楽しい話でもできるかなって思って来てみたの」

     

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