小説家になろう
四精霊の伝説
第3部 動き始めた伝説
大 賢 者 の 塔

(1)

「もうすぐね」
 サラがキリアに声をかけた。
「久しぶりの里帰り……楽しみ?」
「うーん、微妙なところね」キリアは苦笑した。
 キリア達は乗用陸鳥ヴェクタに揺られてキグリスの大草原を進んでいた。目指すはキグリス首都の西に位置する、大賢者の塔。
 ヴェクタはかなり大型の陸鳥で、大きいものならその背に四人は楽々乗れる。バートはヴェクタの翼のところにもたれかかって自分の剣を抱えて目を閉じて寝息を立てていた。リィルは頬杖をついてぼんやりと草原の彼方を眺めている。
 キリア達四人を乗せたヴェクタの後を、少し離れて小型のヴェクタがついて来ていた。そのヴェクタには、リィルの父エニィルが乗っていた。
 ピラキア山を後にしたキリア達五人は、麓の町ギールを通過し、まっすぐに塔を目指していた。
(……里帰り、かあ)
 キリアは心の奥底でそっとため息をついた。

 *

 キリアが「大賢者の塔」に連れてこられたのは九歳のときだった。以来、十年間、ほとんど塔から出して貰えず塔の中で暮らしていた。
 九歳までのキリアは、キグリス首都の南東に位置するワールドアカデミーで教育を受けていた。ワールドアカデミーには国境を越えて学問を志す多くの生徒達が集められていた。リネッタとキリアは同級生だった。ついでに、リンツで再会した医師エンリッジとも同級生だった。
 ワールドアカデミー時代のエンリッジに関する思い出は何ひとつ良いものが無かった。キリアにとっての彼はクラス一の乱暴者、赤毛のいじめっこガキ大将だった。キリアはクラスの中では勉強は良くできたし先生の言うこともきちんと守る優等生だったから、エンリッジ率いるクラスのはみ出し者グループに目をつけられよくいじめられたものだった。
 久しぶりに見たエンリッジは随分と印象が変わっていた。勉強嫌いでサボリ魔で「オヤジの職業なんか継ぐか!」が口癖だったエンリッジが、炎の精霊の力を人を傷つけることにしか使っていなかったエンリッジが、今ではその力で医師として人を癒しているというのだから、一体彼に何が起きたのだろうと勘繰ってしまう。
 しかし、エンリッジが、キリアがワールドアカデミーをやめた一因になっていたことは事実だった。日々のストレスに悩み勉強が進まないキリアを見かねて、せっかく才能があるんだからと、キリアの父が祖父キルディアスに預けたのだった。
 大賢者の塔でキリアは一室を与えられ、リスティルという青年から色々教えを受けた。リスティルはリネッタの兄で、長い髪を持つ穏やかな青年だった。キリアは、リスティルの教えのもと、様々な知識――主に古代語や考古学――を吸収していった。
 何不自由のない塔での生活。確かにワールドアカデミーの同級生達とのような煩わしい人間関係に悩まされることはなくなった。しかし、同時に失ったものも多かったと思い知った。
     

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