小説家になろう
四精霊の伝説
第3部 動き始めた伝説
水 の 迷 宮 ( 上 )

(1)

 コルシカ王国最南の町、コリンズ。
 リィルとキリアは並んで木製のベンチに腰掛けていた。二人の目の前には真っ青なリーガル湖が広がっている。ひんやりとした朝の空気。わずかに潮の香りがする。寄せては返す波の音。波打ち際でちゃぷちゃぷと音を立てている。揺らぐ水面の上にごつごつした頭を覗かせる岩岩。遠くの湖面から湯気のように霧が立ち上り、ゆったりと流れている。
 風が出てきた。波音がざざーん、ざざーんと大きくなる。遠くの波間で二人乗りの手漕ぎボートがシーソーのように揺れながら漂っている。乗っているのは、バートとサラだ。朝、四人で湖畔を散歩していると、二艘のボートが桟橋に繋いであるのを見つけた。サラが「乗りたい」と言ったので、リィルとキリアで「行け」とバートの背中を押してやった。キリアは気を利かせるつもりなのか、自分はボートに乗らないと言って桟橋から少し歩いたところにベンチを見つけて腰を下ろした。
 隣に座るキリアを見ると、バートとサラの乗るボートを自分のことのようにすごく嬉しそうに眺めている。リィルは少しだけ複雑な気持ちになる。小さくため息をつくと、キリアがはっとしたようにこちらを見た。リィルはしまった、と思った。今のため息はどう考えたって場違いだった。
「リィル……」
 キリアが言葉を選ぶように口ごもった。
「もしかして……悪いことしちゃった? だとしたらごめん……」
「はっ? 何のこと?」慌ててリィルは言った。
「な、何勘違いしてんのか知らないけどさ、今のため息は……ちょっと考えごとしてて」
「考えごと?」
「うん。……父さんのこと」
 確かにリィルは苦し紛れではなく、もうひとつため息をつきたくなるような気がかりを抱えていた。むしろこっちの方が深刻だった。リィルの父、エニィルのことだ。エニィルは昨夜一晩中戻らなかった。朝になっても帰ってこないので、暇を持て余して四人で湖畔の散歩に出かけたのだ。
 乗用陸鳥ヴェクタに乗って北に向けて旅を続けていたバート、リィル、キリア、サラ、エニィルの五人は、昨夜遅くにここ、コリンズの町に辿り着いた。コリンズはリーガル湖の北に位置する湖畔の町で、コルシカ王国最南の町である。標高は平地より少し高く、涼しく感じる。リーガル湖の東西からは湖水が滝となって流れ落ちている。その滝の水は東と西の海に向けて流れる大河となり、この河がキグリス・コルシカ国境になっている。橋を渡って国境を越えるときにちょっとした入国手続きがあった。
 コリンズではエニィルの知り合いの女性に会うことになっていた。名前はジュリア=レティスバーグ。コルシカ首都から派遣された研究者だとエニィルは言った。彼女がリーガル湖にあるはずの「扉」について一番詳しい人物だと言う。
 五人は宿をとり、食堂で遅い夕食をとった。「今日はもう遅いから、
     

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