小説家になろう
恋人






 あなたを愛しています
 ずっと、ずっと、あなただけを、愛しています。







 風が走った。
 恋人たちの集う、フルール広場。木々に囲まれたその広場の、中央の時計台の下に、二人はいた。
 若い男女。
 白銀の髪の男性と、赤い髪の美少女。
二人は見つめ合い、ゆっくりとほほえみ合う。
 その光景を前に、カレン=セルウォーエンは、身を隠していたことも忘れ、悲鳴に似た声をあげていた。
 見てしまった。
 こんなものを、見たいのではなかった。
「……どういうつもり、デルフ?」
 口から出た声は、自分の知るどの声よりも低く、震えたものだった。驚いたように振り返るデルフ=シリエンタの、その青い双眸を、カレンは見つめる。
 戸惑わないで、焦ったりしないで──どうか、どうかと、手を握りしめる。
 しかし、期待に反して、デルフの目に浮かんだのは小さな動揺。そして彼は、悲痛な表情で、瞳を逸らす。
 カレンは震えた。なぜ、そんな顔をするの。なぜ、何もいわないの。
 なぜ、いいわけすらも、してくれないの。
「愛していると……あんなにいいあったわ。結婚しようって、いったわ」
 嘘だったの、などと、陳腐な言葉は口にしたくない。そんな言葉で片づけられる気は到底しない。カレンの目に、思い出したように、涙がにじむ。
「そのひとは、だれ? どうして? わたし、待っていたわ。約束の教会で、ずっと……待っていたわ! どうして!」
「ごめん」
 ただ一言、デルフの告げた言葉に、カレンの視界が色を失う。
 目眩がした。
 幸せなときが永遠に続くと、甘い言葉が永遠のものだと、そんなことを思うほどこどもではないけれど、それでも永遠と錯覚させるには充分すぎるほどのときを、二人で過ごした。
 卑怯だ。
 それならば、最初から他人であればよかった。
「……きらいになったと、そういうこと?」
「ごめん」
「────!」
 カレンは、身を翻した。 
 そのまま振り返らず、まっすぐに広場を後にした。
 残された二人のそばを、もう一度、風が吹く。
「……ばかね」
 赤い髪の少女が、デルフを見上げ、無表情で呟いた。
 
   *

「それで承諾したのか」
 黒髪、黒服の青年が、静かに立っている。
 声に感情はない。
 しかし、長い付き合いだ。怒りのオーラが、手を伸ばせばつかめそうなところまで、めらめらと立ち上っているのが見える。
 豪華絢爛の一言につきる客間。トイレ、バス、キッチン完備。この部屋だけで十分生活していけそうだ。その客間の中のリビングの、ふかふかソファに寝転がったままの体勢で、少年は困ったように片眉を上げて見せた。春ののどかな陽気の中、気持ちよくまどろんでいたところだったのに。タイミングの悪い相棒だ、などと思いながら。
「やー、まあ、啓ちゃんが怒るだろうなあ、とは思ったけどさ。

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