うだるような蒸し暑さ全開の夏真っ盛りのある日。
俺は団扇を右手に、ビールの缶を左手に、どっかとソファに腰を下ろした。
仕事を終えて、風呂でさっぱりした後のビールは毎日の俺の楽しみである。しかも今日は泡までうまいモルツを飲める、月に一度のプチ贅沢デイなのだ。安物のビールとは一味違う。
ひとまず団扇で風を送り、火照った体から熱を逃がした。
夏の暑さは鬱陶しい。いくらさっぱりさせても後から後から汗が湧いて切りがない。
鬱陶しいのは他にもある。同じく後から後から湧いてくるもの。頭に描くのさえ腹立たしい。夏はひたすら我慢の季節だ。
そんななかで見出せる楽しみといったら、やはりコレしかないだろう。
夏といえばビール!
特に風呂上りのビール!
おっと飲み頃を逃がしてしまう。団扇を扇ぐ手を止める。
ビールに視線を注ぎ、プルトップに指をかける。
プシュッと軽快な音がした。きめ細かな泡が飛び出すと共に冷気が薄っすらと上がる。思わず拝みたくなるような、キンキンに冷えたビール、ごっつぁんです。
漂う香りの清涼感に夏の暑さが吹き飛んだ。
にんまりと笑う俺は最早、目の前のご馳走に釘付けだった。
が、そこで俺のご機嫌タイムを損ねる無粋な音が耳に入る。
ぷ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん
一気に不快指数が跳ね上がった。背中の毛がざわりと立つ。
弦を震わすようなこの音は、なにより俺が嫌ってる音なのだ。どんなに微かな音でも俺は聞き漏らさない自信がある。そしてこれが聞こえるということは奴が近くに潜んでいることを示しているのである。
俺はビールをテーブルに置いて立ち上がった。音源を探して周囲をくまなくチェックする。
すると右手すぐ近くの白い壁に、小さな黒い点があるのを見つけた。
一見すると汚れかなにかに見えるその無機質な黒い点は、斜めから見ると僅かに中央が盛り上がっており、四方に突き出る細い線がただの汚れとは異なることを物語っている。見逃すはずがない。この周囲の景色から浮き上がって見えるような異質感。見た瞬間に肌が粟立ち生理的不快感がこみ上げてくる。
いたぞ。奴だ。
俺の目が光った。体の奥底より湧き上がる闘志が俺を突き動かす。本能が訴えた。
殺せっ! 奴を殺せっ!
右手の団扇をテニスのラケットのように構える。勢いに乗って素振りもニ三度行いたかったが、奴を警戒させるかもしれないのでそれは控える。奴を仕留めるにはスピードが命なのだ。
俺はじりじりと奴に近付いていった。ぬき足さし足三歩ほどで奴との距離は手が届くほどに狭まる。近付くほどに、不明確だった黒い点が間違いなく奴であることを示す生命感を漂わせる。
殺意はさらに高まった。
団扇を僅かに振り上げる。
額に汗がじわりと浮かんだ。
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