小説家になろう
幻話

だる様な外界の暑さは窓越しの視覚からでも伝達される気がして、私は視線を室内へと戻した。室内は申し訳程度に稼動している冷房機と扇風機の活躍により、私を脱水症状に陥らせる事は無い程度の状況を保っている。
視界に映る、机上で汗だくになっているグラスとその汗に塗れて皺だらけになっている書類。
その書類の無残な姿に己の堕落した生活が重なり、思わず舌打が出てしまう。
あたかも舌打による空気の振動がグラスの中の氷を落としたかというタイミングで音が響き、何をする気にもなれない私を叱咤しったしているかの様。だがそれでも堕落に身を委ね、私はソファへと墜落し、眼を瞑るのであった。





「おっちゃん! また仕事して無いのかよ」

唐突に私に向けられる声。その声に意識は覚醒し惰眠から強制排除されてしまったが、私はそれでも声の主には顔を向けもしない。する必要も無い。
私が何も反応しない事に業を煮やしたのか、声の主は只でさえ馬鹿でかい事を殊更にでかくして吼える。

「おっちゃん! 起きなさいよ! 態々このアタシが来てあげてるんだぞっ! 町内でも評判な性格良しで器量良しなこの早紀様がこんな怪しい幽霊探偵事務所に来てあげてるんだぞっ!」

「……お前程度が評判になるくらいなら、この地域のレベルも落ちたもんだわなぁ」

ごすりと、背中を凹ませる重圧。幼子に足蹴にされる気分は全国共通、決して心地よい物ではない。特殊な性癖があれば勿論話は別であろう。
私を踏んで止まない彼女はその足に捩りを加え、私の背中を更に蹂躙じゅうりんし、それでも口上は何事も起きていないかのように会話を続ける。若し育ての親がこの光景を微笑を湛えて観て居ようならば、封印されし私のアッパーカットが牙を剥くことだろう。

「なぁ、外凄いぞ? 道路に蜃気楼が出来てやがる」

「お前の言うシンキロウってのは、はまぐりの吐いた気で出来た楼閣の事か? それなら間違いだぜ? 蜃気楼ってのは春の風物詩だ。夏の話題って意味ではお門違いって奴なんだが……嗚呼、そうか。お前の言いたいのは蜃気楼ではなく、逃げ水現象の事だろう。ま、光の屈折に起因する幻って分類では同一だがなぁ」

「ふーん」

私の懇切丁寧な豆知識情報を高々三文字で斬り捨て、興味を失ったのか私から足を退けた。何て忌々しい餓鬼だろう。
この情操教育が上手く行われていない餓鬼に説教すべく、仰向け状態へと移行すれば、それを待ち構え抑え付ける様に声を掛ける餓鬼。部屋の主に断りもせず悠々と客人用ソファに腰を落ち着けていた。

「で? 話を聞かせてくれるんだろ?」

唐突に尋ねてくる。それも私が惚ける事を既に予測し、御丁寧にも皺くちゃになった机上の書類を摘み上げながら。それをひらひらと振って意地悪く言う。

「別にアタシに話を聞かれたとしても何の損にもなりはしないだろ。

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