小説家になろう
神封巫女伝
第一章(2)

『民が森に分け入る前に、神の存在を見いだし難をしりぞけ、さらに真名を明かして完璧に封じたとは。今回の働き、見事であった』
「恐れ入ります」
『褒美を取らせよう。わらわにできることならば、叶えてつかわす。何なりと、遠慮せずに申せ』
 イアの威光が覆う地で、大王に次ぐ力を持つ大巫女に、できぬことはない。どんな望みでも叶うだろう。
 まさに、突然の幸運。いったい何を求めるべきか、よく考えねばならない。
 ところが、アミネ自身、思いもしなかった言葉が突如、口をついて出た。
「人が……神を封じて良いのでしょうか、大巫女様」
 神殿の気配が滞った。空恐ろしいまでの寒さが、あたりを支配する。まさに、あらゆる流れが凍り付いていた。
 しまった、とアミネが思った時は、既に手遅れだった。
 何を口走ったか。
 気でも触れたのか。
 後悔よりも早く、アミネの意識は神殿を抜け、すべての流れが止まった、銀に染まった薄明かりを彷徨っていた。
 アミネにとって、親しい場所だった。あらゆる苦痛と、悲しみのない、『止まった』世界。神以外立ち入ることのない、アミネ一人だけの場所。
 ところが、誰もいないはずの目の前に、何者かの存在を感じた。
 大巫女様?
 そのはずはない。まばゆいイアの威光とは、全く異なる気配に包まれていたから。
 神か?
 神々や精霊の持つ、古さや威厳はそこにはなかった。
 それは、光ではなく、また、闇でもなかった。
 あたりに広がる銀色と混ざり、ほとんど溶け合い、目立たないながらも、気づかないではいられない、不可思議であやしげな気配を発している。
 時も、光の流れも、すべてが止まっているはずなのに。誰もいないはずの場所なのに。だれが……。
 アミネは突然、先程の言葉を吐かせたのが、この見えない存在であることに気づいた。そのものに近づこうとした時、巨大な竜巻のような音が遠くから響いてきた。


 アミネは、再び暗い鏡の間に舞い戻っていた。
 大巫女がついた深いため息に、張り詰めていた気配が弛み、再び鏡からは光が流れ始める。
『そちは習いを忘れたか』
「もちろん、シルメトの習いはすべて諳じております」
『ならば、そのようになせ』
「しかし……、彼らを封じるたび、言葉が耳をつくのです。人の身にて神を殺し、精霊を封じることが許されるのか、と」
『わらわがなんと言ったか、そちはもう忘れたのか。それともシルメトごときが、わらわに口答えをするのか』
「いいえ、大巫女様」
 アミネは改めて深々と頭を下げた。
「失礼を致しました。ご容赦を……」
『そちは真名を求め、闇と深く繋がり過ぎた。邪神に惑わされている。直ちに禊をなせ。……こうなると、何らかの処罰は必要であろう。やはり、エリキ姫に任せたのが間違いであったか。

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