小説家になろう
ドクターズファミリー ケース2

丸田静江さんの場合

 看護師を10年やって結婚した。
彼が研修医の頃、私は7年目だった。仕事が面白くて面白くて、毎日が楽しかった。身体はきつかったけどね。あの頃、私には付き合っていた彼氏がいたけど、私が仕事にのめり込んでいるうちに、いつの間にか新しい彼女を作ってしまった。悲しいと言うより、何だか悔しかった。自棄酒も飲んだ。当分、誰とも付き合う気はなかった。前の彼は医者じゃないよ。地元の中小企業に勤めるサラリーマン。高校の時から付き合ってた。
 仕事一筋に生きていこうと思っていたころ、彼は研修で、私がいる血液内科に回ってきた。前の彼とは全然違うタイプ。毎年、研修医を見てるけど、やっぱり頼りないんだよね、最初の頃って。まさか、このヒトと結婚するなんて、思いもしなかった。年下だし。
 看護師は嫁にいき遅れるってよく言われる。忙しくてあたふたしているうちに年をとってしまうのと、いろんな男性、特に医者と知り合いになるから、見る眼が肥えてくるんだとか。さあ、本当だかどうだか。
 医者と結婚することが目的で看護師になる人も、中にはいる。一緒に仕事をすれば、そういう種類のヒトはすぐにわかる。勿論、みんなが医者と結婚できるわけではなく、大半は、会社員とか、全然違う職業の人と、あっさり結婚して職場を去って行く。一生懸命、新人看護師に仕事の手順を教えて、2〜3年たって、やっと使えるようになってきたかと思うと、さようならだ。
 私はむしろ、医者と結婚したいと思ったことはない。合コンに行ったこともないし、「医者との合コン」そのものにものすごく抵抗を感じていた。そういう種類の人間だと思われるのが何より嫌だった。患者さんには優しいつもりだけれど医者に媚を売ったことはない。

 ちょうど年末・年始を挟んで、彼は血液内科で研修した。まじめでおまけに要領が悪い。研修医と言えども、医者だから、彼からの指示が出なければ私たち看護師は、仕事が前に進まない。英語の文献なんてどうでもいいから、やることさっさとやってよねって言いたい。
「秋本さんの指示、急いでくださいな。川村先生から検査計画書渡されたでしょ?」
 イライラして彼に話しかけた。それが彼との最初の会話。
「あ、はい。いや、あの〜、検査伝票と注射伝票もボクが書くんですか」
おいおい、研修医君、しっかりしてよ。呼吸器内科では何を勉強してきたの?救急だって終わったんでしょ? ここの病院のシステム、そろそろマスターしてもいいんじゃない? 
 彼に対する私の第一印象はそんなとこだった。

 忘年会で、彼は私の隣に座った。かしこまって私の酌を受けたのが可愛かった。色々話を聞くうちに、彼への見方が変わってきた。
 お酒が入ると、おかしいくらい、お喋りになった。12歳のときに父親を交通事故で亡くしたと言う。へー、苦労してきたんだ。

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