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【ユース・ラッシュ】 16 : とまらないこと

「いっやーん! 可愛いー! ちっちゃーい!」
 夏梨が一番隊の隊首室を出ると、聞き覚えのないテンションの高い女性の声がした。同時にむぎゅうと頭から全身を抱きしめられて、身長差のせいで顔を胸らしき豊満なそれに押し付けられる形になる。そのまま力を緩めてくれないものだから、危うく夏梨は窒息するかと思った。
 だがその寸前でなんとか腕を突っ張って、ようやく体が解放された。
「ぶはっ! ちょ、なに……」
「あ、ごめんなさいね、苦しかった?」
 嫌味なくかけられた声に顔を上げて、夏梨はようやく自分を窒息させかけたその女性を見た。
 まず目に止まったのは、その長く艶やかな黒髪だ。高い位置でツインテールにしているが、それでも二の腕ほどまである。歳は十八前後くらいに見えたが、やたら色っぽい整った顔立ちと深い紫のような瞳が印象的だった。服装からして院生のようだが、なぜここに、とそこまでを夏梨は一気に考える。
 ここは一番隊の隊舎のはずだ。今隊首室から出てきたのだから間違いない。確か隊舎には、呼ばれない限り院生は入れなかったはずなのに。
 そう思ったのが顔に出たのか、前に立った院生は、始めのハイテンションはどこへやら、にっこり笑ってみせた。
「初めまして。私は六回生の水町真夜よ。あなたを迎えに来るように言われて来たの」
「迎え?」
「そうよ。……もしかしてあなた、今日が何の日か忘れてないかしら?」
 そう言われて、夏梨はちっともピンとこなかった。
 この一週間、一日のほとんどを一番隊の隊首室内にある小さな部屋で過ごしていたから、いまいち日数感覚が鈍っているようだ。部屋から出るのは食事と入浴時のみで、それも人目を避けるために不規則な時間で取っていた。
 夏梨が黙っていると、真夜と名乗ったその院生はくすりと笑って夏梨の手を引く。そしてそのまま歩き出した。
「ちょっ……あの、先輩!?」
「あら、名前で呼んでくれなきゃ嫌よ。その可愛い声で、真夜お姉ちゃんと呼んでちょうだいな。……ああん、今が急ぎでなきゃ、目一杯可愛がってあげるのに」
 心底残念そうに言う真夜に、夏梨は思わず返答に困った。真夜の意図が一切読めなかったのだ。
 とりあえず会話を続けるために、要望どおりにしてみることにする。
「えっと……ま、真夜先輩?」
「“お姉ちゃん”」
「……真夜姉」
「あら、いいじゃないそれ。なあに、夏梨」
 手を引かれながら機嫌よく、あっさり名前を呼ばれて、夏梨はきょとんとした。
「何であたしの名前……」
 すると真夜は当然のように答えた。
「あなたは有名人だもの。……て言っても、噂が独り歩きしてるばかりで、名前とかはあまり広まってないけれど」
「そうなの?」
「ええ。もっぱら広まってるのは、そうね……『チビクロ』かしら」
「は?」


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