<栗原翔太君の場合>
ボクのお父さんは、泌尿器科の医者をしている。お母さんも小児科の医者をしていた。ボクを産むまでは。
小学3年の頃、ボクは作文で、将来医者になって世の中の困っている人を助けたい、と書いた。その頃は、本当にそう思っていた。いや、少し違う。そう思っていると思っていた。
最近、それはウソだと思うようになってきた。将来医者になるのかと思うと、ボクは憂鬱になる。医者って、ボクの中では、「楽しくない」職業だ。お父さんがボクに「医者って言うのはな、……」と言い出すと、ボクは逃げ出したくなる。作文だって、お父さんが期待しているって思ったから書いたんだ。ボクはずっといい子だった。
お母さんは、ボクに医者になれとは言わない。
「翔太の好きにすればいい」と言う。
でも、ボクは知っている。お母さんもまた、ボクに医者になってほしいんだ。
去年の正月、ばあちゃんちへ行った時、知子おばちゃんは、ボクに言った。
「翔太、大きくなったらお父さんとお母さんみたいなお医者さんになるんでしょ?」
いつからかな。こういう言葉が何となくイヤになってきたのは。
今年の正月は、塾の中学受験合宿があったから、ばあちゃんちに行かなかった。受験勉強は好きじゃなかったけど、ばあちゃんちに行くよりいいかなって思ったさ。親戚が集まると、必ずボクの話が一回は出るんだ。何かね、居心地悪いんだ。
そうそう、去年の正月の話だったね。知子おばちゃんが、ボクに将来の話をした時、お母さんは、言ったんだよ。
「医者になりたくても、偏差値がね。ね、翔太」
こういうのさ、「翔太の好きにすればいい」って言う言葉と矛盾してるでしょ? お母さんのこういう所、ボクいやなんだよ。だったら、お父さんのように「医者になれ」ってはっきり言われる方が、まだマシだよ。
ボクが医者という職業が何となく嫌いになったのは、小学5年の時に同級生からからかわれたことが原因の一つになってると思う。
「泌尿器科ってさ、チンチンいじるんだろ?オマエの父ちゃんって、スケベだあ」タクヤもトモヒロも股を広げて体を左右に動かしながら、ゲラゲラ笑った。
せめて、お父さんが「外科」とかだったら、もう少し格好よかったのに。
お父さんは、手術がうまい……らしい。時々透析シャントの話を聞く。腎臓が悪くなるとおしっこが作れなくなるから、透析をして、老廃物を出すんだって。ボクは、シャント術という手術をするのは格好いいと思う。だから、タクヤとトモヒロに
「泌尿器科はシャント術をするんだよ。」と言ったら、二人はキョトンとした。
トモヒロが
「シャント術って何だあ。」と聞くと、
タクヤはまたゲラゲラ笑い出して、
「ばっかだなあ、お前。シャント術は、チンチンが『しゃんと』するように手術をするんだよ。」
[1]次 最後
現在 1/10(ページ)
[2]しおりを挿む
[3]お気に入り登録
[0]小説案内ページに戻る
▼小説検索サイト
∟小説を読む
∟ラブノベ
∟NOS
小説家になろう
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/情報提供
出版社・メディア関係者様へ
公式ブログ/お問い合わせ
運営:HINAproject