小説家になろう
赤狐蒼狼琴奏記
はじめてのりょこう その1

「そろそろお前も人間の世界に親しんできたな」

「そうか?」

ある日、俺が家の中で掃除機をかけていると麓がそう言ってきた。
確かに初めの方とは比べ物にならないぐらいに俺は強くなっているだろう。
道具に、な。

「ちょっと旅行でもしてみるか?
 ん?」

「りょこう?」

初めて聞く単語だがやたら俺の耳に残る言葉だった。
りょこう、か。
どんな字を書くのだろうか。
あとで辞書で調べてみようっと。

「ん、旅行だ」

掃除機をかける手を止めて俺は麓の顔をしげしげと眺めた。
行くってことは、どこかに出かけるということだろう。
でも、りょこうって何するんだ?

「楽しい?」

「楽しい」

「おお!
 行く!!」

なら行くに決まっている。
楽しいのを逃す手立てはない。
なんか楽しそうだし行く。

「旅行なんてもん、私もあまりしたことないけんどね。
 まー、なんとかなるやろ。
 昔親に何回か連れて行ってもらったっきりだからな」

「親、かぁ。
 いいなー麓」

普通にうらやましい。
麓だって狐のくせにどうしてここまで差が開くというのか。

「天狐だからな」

「うぐぐ……神だもんな、一種の」

「うん」

俺も神の家系に生まれてたら麓みたいにたくさんのことを知っていたのだろうか。
今のこの生活がもしかしたら逆になっていたかもしれないんだろ?
人生って不思議だよなぁ。

「よし、ウルバルも行くって決めたなら早速行こう!
 家から出るぞー!」

麓はそういうとのそりと起き上がりぶつぶつと呪文を唱え始めた。
すぐに光が麓の体を包んでゆく。
かと思うと霧散して、消えて行った。

「うむ、最近の若いもんはこういった格好をするらしいからなぁ」

光が消えた麓は、今までの着物姿ではなく人間臭い着物ばかりを纏っていた。
ひらひらとしない、青っぽいズボンに上にはきらきらした首輪みたいなのをぶら下げてる。
そして上服は変な人間の顔が描かれた模様になっていた。
その上からさらに一枚羽織ると、完璧に今までの麓の姿は消え去りただの人間がそこに立っているように思えた。

「やれやれ。
 ウルバルも服を変えないと怪しまれるからな」

「え、俺はいいよ、え、いいってば」

両手をふりふりして後ずさりする。
なんかそんなよく分からない恰好をしたくない。
薄気味悪いんだもの、なんか。

「薄気味――あーそうですか。
 じゃあお前は首輪つけて犬っころみたいにして連れて行く。
 鎖もつけるからな」

「そ、それはやだ……」

だって、それじゃまるで犬じゃないか。
俺は狼だぞ。
ペットみたいにされてたまるか。
一人前のプライドぐらいは俺にもあるんじゃ。

「じゃあおとなしく受け入れろ」

「うー……はい……」

これをしないと旅行に行けないのならなおさらせざるを得ないだろう。
するよしますよ。


     

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