小説家になろう
赤狐蒼狼琴奏記
はじまりのおわり。

「何したんだよ本当にもう!」

「ほら、そこの川で確認するがいい。
 どうだ?」

麓はそういって脇に流れている川を指差した。
冗談じゃない。
俺が人間だと?
笑えない。
笑えない冗談だぞ。
自分が人間になっているなんて否定しかしたくない。

「そうかたくなに拒否してないで見てみろって。
 ね?」

麓はにやにやと薄ら笑いを浮かべながら俺を見下ろす。
おずおずと右前足――じゃない、右手を前に出して一歩進んでみた。

「ひっ」

圧倒的に敏感になっている手が土をぐにゃりと掴み、ぞっとした気持ち悪さを感じさせる。
土ってこんなに冷たいものだったのか?
というか人間はこんな手でどうやって物をつかんだり……しているんだ?
土がついて茶色くなった右手をまじまじと見つめる。

「あー、もー。
 その疑問はいいから。
 早く見てみろって言ってんの」

麓はそういってグイッと俺の着ている服を掴み川へと突き付けた。
きらきらと月光を照り返してきらめいている川に悪魔のような天使狐麓ともう一人の人間の顔が写り込む。
青色の癖のある髪の毛。
紫色の左目、赤色の右目のきょとんとした幼さが残る男の人間の顔だ。
若干口の中の犬歯が大きいままでこれが元狼と言った風貌を教えてくれていた。
美しいかどうかは判断しかねる。
だって俺狼だもん。
自分の顔だと信じれなくてほっぺたをなぞってみた。
水面の人間も俺と動きを合わせて動く。
冗談――じゃないだと。

「赤い右目は私が力を貸してる証だから。
 気にしちゃダメ。
 見えるでしょ?」

……まあ、見えるっちゃ見える。
俺は川の水面から目を離し、麓の方を見上げた。

「じゃなくて、なんで人間の姿にしたんだよ。
 俺は狼の方が……」

狼の姿のままの方がいろいろやりやすいし。
それに人間には吐き気すら覚えるほど嫌いなのに。
それなのに人間の姿にするなんて。

「うるさいな。
 いいじゃん、別に。
 私の勝手でしょ?」

「だけどなぁ……」

少しでいいから俺の話を聞いてほしいものである。

「もー……」

俺の抗議に麓も勘弁したのだろうか。
やれやれと首を振るとくるんと空中で指を回した。
その流れのまま人差し指を俺に向ける。
何をするつもりだ?
呪術使うからなぁ、こいつ。
元に戻してくれるのだろうか。

「うるさいからちょっとね」

麓がそう言ったと同時に突如、首にがっつりとした衝撃を食らった。
衝撃に弾かれ、しりもちを打つ。
尻の鈍痛を確かめるよりも早く俺の右腕は衝撃を受けた首を触っていた。
何か、よくわからないものがぐるっと首回りを覆っている。
ざらざらとした手触りと金属の冷たい感覚。
俺はこれを見たことがある。
人間がペットに着けている首輪とかいうやつだ。

「っ、なんだよこれっ!」


     

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