小説家になろう
赤狐蒼狼琴奏記
はじめてのタブレット。

「はい。
 じゃあ次はこいつだ」

なんだそれは。
麓が手に持っていたのは白い薄い板のようなものだった。
というかただの板だろ。

「……?」

「なんか知らんが今人間界ではやっているものらしい。
 たぶれっ……なんちゃらとかいうやつだ。
 こいつはすごいぞ」

麓は耳をぱたぱた、しっぽを振り振りして俺に言ってきた。
ふむ……。
何がどうすごいのかいまいち分からんが。

「これはだな。
 触ると動くのだ」

満面の笑みで麓は俺に言ってきた。
いやぁ……。

「普通じゃね?」

触ると動くのは普通だろ。
俺は麓から板を受け取ると地面においてちょいと指でつついた。
畳の床の上をずりずりっと、滑る板。
ほら、動く。

「これぐらい普通だろ。
 触れば動くもんだって……きゃん!」

頭をがっつりと叩かれた。
板の角で。
毎回角で叩くのやめろ!
涙目で麓に講義する。

「いーから、聞け。
違うんだよ、ウルバル。
 まー、私に貸してみんさい。
 仔犬風情には理解できると初めから思ってはいなかったよ」

鼻で笑われた。
なんだよ、動いたじゃんか。
いまいち不満を隠せない俺。

「やれやれ……。
 はい貸して」

麓は板の透明なガラスが張ってある面を指でつついた。
するとテレビのようにぼーっと光りはじめる。

「どう?」

してやったりの表情の麓を目の端に追いやって板を凝視する。
触ると動くってこういうことか。
なんだ、あんまり使えないんだな。
つまらない。
光るだけか。

「これだけで終わりと思っていただろ?
 違う、甘い。
 いいか、ウルバル。
 よく見てろ?」

俺にデコピンを喰らわせて麓は指を画面の上に乗せ、ついっと横に動かした。
なん……だと。
それと連動して液晶の記号も移動する。

「!?」

ついて行ってるということか?
まさか、触ると動くってこういうこと?

「どうだ?
 驚いただろ?」

腰に手を当てふんぞり返る麓の裾を引っ張って

「俺もやる」

くれくれ、とねだって板を受け取った。
早速液晶に指を乗せついっと横に払う。
指の動きに合わせて板の中の記号もついっと動く。
これは楽しい。
あっちへ行くと思わせて……行かない!
こっちへ行くと思わせて……行く!
人間の道具って面白いなぁ。

「……でもさ」

しばらく遊んでいたところで思ったことがあるから言いたい。

「ん?」

「この板はこれ以外に使えないの?」

ついっと動くだけ?
え、これだけなん?

「そうだ」

麓は頷くと「よいしょ」という掛け声とともに床に座った。
リモコンを手に取り、テレビをつける。

「本当にこれだけなの?」

「そうだ」

しばらくリモコンをいじっていたが面白い番組が見つからなかったのだろう。
電源を消すと麓はふぅ、と息を吐いた。

「これだけかぁ」


     

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