小説家になろう
空き缶を投げ捨てろ


 誰もいない公園で、一人ジュースを飲みながら歩く幸せは、なかなかない。
 新鮮な空気と一緒に、美味しい飲料を飲んで、自然豊かな道を歩く。些細ながらこの小さな幸せは、彼にとっては重要なものであった。
 だから、こうして缶ジュースを飲み干したあとだって、絶対にポイ捨てはしない。必ずゴミ箱を見つけて、そこにちゃんと捨てる。
 当たり前のことだが大事なことだ。彼はそう思いながら辺りを見渡して、ゴミ箱を探した。
 ここはなかなか古い公園ながら、そういった設備はしっかりしていて、少し歩いていると網状のゴミ箱が見えてきた。
 箱ブランコのように揺らすことも出来るそれは、彼も他の例に漏れず、子どものころは揺らして遊んでは、母親に怒られたものだった。
 そんな懐かしさにふけりつつも、彼はゴミ箱に向かって缶を投げ入れようと高く遠投した。
 遠投された空き缶は、ゴミ箱をわずかに飛び越えて、後ろの草むらまで飛んでしまった。
 やれやれ、失敗してしまった。彼は、辺りに誰もいないのにもかかわらず、気まずいような表情を周りに向けたあと、空き缶を拾った。
 そして、元のところに戻ると、もう一度遠投体勢に入って、投げた。
 ヒュンッ。
 カンッ……コーンッ!
 ゴミ箱の縁に当たると、元持ち主のおでこに戻ってきた。
 随分と小気味良い音がしたが、それは空き缶の底の縁が、おでこに当たったからであった。
 少しイラッとしながらも、彼は今度こそと、遠投ではなく普通に野球のボールのように、思い切り投げ放った。
 投げ放たれた空き缶は、ゴミ箱の網のところに当たって、トランポリンみたいに、空き缶を跳ね返した。
 跳ね返された先は、元持ち主の腹。しかも鳩尾に近いあたりだった。
 とても苦しそうなうめき声をあげながら、彼はその場に蹲った。そして、空き缶を睨んだ。
 スコッ、カーンッ!
 一発コンクリートの地面に叩きつけてから、自分の手に戻すと、彼は今度指で丸を作り、ゴミ箱への照準を定めた。
 今までのは狙いが悪かったのだ。今度はこうして冷静に狙えば間違いはないはずである。
 そして彼は、自分の感覚通りに、先程のような投球フォームで空き缶を投げた。
 が、わずかな差で空き缶は外れて、また縁に当たると、今度は斜め上に勢い良くすっ飛んでいった。
 スコーン。ファサッ。
 木の葉のクッションの中に入ったかと思ったそれは、その中の木の枝で何回か反射してから、再び空き缶を元の方角へ弾き返す。
 そんな馬鹿なと、彼は顔を両手で隠した。
 カーン、スコーン!
 しかし、弾かれたそれは、再び地面に跳ね返ると、彼の顎目掛けてすっ飛んでいった。
 アゴに缶の角が当たったのだから、それはもう溜まったものではなかった。
 普段痛い思いをしないところほど、激痛を感じる部位はないのだから。


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