プロローグ
「うははははは〜!」
頑丈な金網に囲まれたステージの中心で、剣士風の男が襲い掛かってくるモンスターを切り倒している。モンスターの返り血を浴びて全身真っ赤になっているが、全く気にするような素振りも見せない。
まるで修羅か悪魔のような戦いっぷりだ。
ここは聖都アームステルにある闘技場。一般的に闘技場とは捕獲してきたモンスターと冒険者を戦わせる、平和な日常に飽きた金持ち達の道楽施設を指す。
しかしこんな施設も金に困った冒険者には有難いものである。
それにしても聖都と言ってもこのような道楽施設はいくらでもあるんだなぁ。
この闘技場の隣にはカジノもあったし、その更に奥には誘惑的な服を着た女性が客引きをしている怪しげな通りも目に付いた。
人間、所詮欲には勝てないのだろう。
「さすがに嬉しそうだね」
俺の隣で一緒に観覧席に座っている女性が言った。俺と同じパーティーのメンバーである幻想士の秋留だ。
ピンク色の綺麗な髪が特徴の、魅力的な女性である。
秋留の性格からいってこのような施設は好きではないのだろう。あまり楽しそうな顔はしていない。
美の女神が舞い降りたかのような風貌、そして慈愛の天使のような優しい心の持ち主である秋留だから……。
「……あまり興奮し過ぎないで欲しいな」
「う、うん、そうだね」
秋留と意味ありげな会話を交わす。
実は目の前で戦っている剣士はただの剣士ではないのだ。
「そこですぞ〜!」
俺の思考を中断するかのように秋留の更に向こう側にいる老人が叫んだ。
「ぶちかませ〜!」
「そうじゃねえだろう!」
老人に呼応するかのように観覧席にいた他の観客達も叫び始めた。
血に飢えたモンスターは、金網の向こう側で牙を剥いている獣か、観客で叫んでいる人間達なのか分からなくなりそうだ。
「いやぁ、興奮しますな。ワシの若い頃を思い出しますぞ」
先程叫んだ老人が無邪気な子供のように話している。
聖騎士のジェット。
秋留と同じく俺と同じパーティーの一員だ。いつもは温厚で声を荒げる事などほとんど無いのだが……。まさかこういう隠された性格があったとは。
「頑張るのですぞぉ!」
ジェットは再び金網の内側で行われている戦闘に目を向けた。
片手に賭け用のチケットが握りながら……。
「……聖? 騎士だよな」
「あはは……」
俺の疑問に秋留も苦笑いだ。
聖騎士とはガイア教会で認定を受けた聖なる職業のはずなのだが、ジェットは酒も飲むし今日のように賭博に燃えていたりする。
不思議なジェット。
しかし一番不思議なのは酒を飲むことでも、賭博をすることでもない。
ジェットは秋留の力によって蘇ったゾンビなのだ。
普通に食事をして普通に睡眠をとる。夜早くて朝早いことなどは老人の代表的な生き方でもある。
人間よりも人間らしいゾンビのジェット。
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