第一章 霊獣の親子
「……う〜ん」
岩にもたれたカリューが唸っている。自分が獣に戻ってしまった悪夢を見ているに違いない。しかし今のカリューの姿は戦闘前と同じ、少しもみあげが豪快なだけのただの人間の姿だ。
「人間にはよくある事なのか?」
『無い無い』
マッハの質問に俺達人間は全力で答える。……ジェットは純粋な人間ではないが。
「……う〜ん」
まだ唸っている。余程悲惨な悪夢に違いないが、現実もあまり変わらないぞ。戻って来い、カリュー。
「う、うぅぅ……」
そろそろ唸り声が気になり始めた。暑っ苦しい男の唸り声など聞きたくないぞ。
「こら! カリュー! いい加減起きろ!」
堪忍袋の緒が切れやすいクリアが叫んだ。
かつてのご主人様の命令により、カリューが飛び起きた。ついでにグッスリ眠っていた犬の紅蓮までもがシャキッとお座りのポーズを取っている。
……カリューもお座りをしている。
「! お、俺の身体は!」
そう言ってお座りの体勢のまま手足や顔、尻尾が無い事を確認する。
「……はぁ〜、夢だったのかぁ」
安心しているカリューに投げ針を見せる。
「ああああああ!」
カリューが立ち上がってそのまま逃げようとする。
「カリュー!」
クリアが叫ぶと同時にカリューの身体がその場で硬直した。
「ブレイブもあんまりカリューをいじめないように」
秋留に注意をされて大人しく投げ針を鞄に戻す。カリューは生気が抜けた顔を俺達の方へと戻した。
「俺は人間に戻ったんじゃないのか?」
その場にドサッと座り込む。
確かに人間に戻ったと思って今日まで約一週間……カリューは人間の姿をどんなに喜んでいたことか。最近では落ち着いたが、戻ってすぐは手鏡を常に携帯して自分の顔を眺めていたからなぁ。
一緒に聖都を歩いている時は少し恥ずかしかったが。
「興奮し過ぎると一時的に獣人化する体質になったみたいなの」
秋留が申し訳無さそうに言った。
秋留が罪悪感を感じる必要はないのだ。実はカリューの体質を変えた根本的な原因は、俺が起こしたと言っても過言ではないのかもしれないのだが……過去は忘れよう。
「そ、そんなの人間じゃねぇ!」
「そうだな」
優しい俺の一言にカリューが激怒して殴りかかってくる。俺はそれを冷静にヒラリと避けた。
『ブレイブ!』
秋留とクリアが同時に叫んだ。ちょっとふざけすぎたようだ。
「もう駄目だ……生きていく気力が無い」
カリューの身体の回りにドンヨリと重い空気が見える。
「カリュー!」
秋留が叫んだ。その声は聞き流す事が出来ない、物凄く威圧感のある声だ。
沈んでいたカリューも秋留の方を見上げる。
「この世界にはまだ沢山の悪が存在するわ!」
カリューと秋留を除く全員が思わずコケそうになった。
しかしカリューは秋留の台詞で少し気力が沸いてきたようだ。
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