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勇者が死んだので三等書記官は魔王城へ行きます

「もう一度、言ってくれるかな? 君はまだ戦うと言うのかね?」

 悪魔宰相は私が狂っているのではないか、と疑うようにこちらを眺める。それはこちらを探るようなもので私がハッタリをかましているのなら許さないぞ、という底意そこいがこもっていた。

「ええ、何度でも言います。我が国は勇者を失いました。それでもなお戦い続ける、と申したのです」

 私はできるだけゆっくりと断固とした口調で言った。それは明らかに相手に聴かせるためのもので芝居臭いものであっただろうが、効果はあったに違いない。悪魔宰相は難しい顔をしたまま動かない。隣では将軍が「おい、違うだろ」とか「早く訂正するんだ」と、言っているが私はそれを無視した。

 将軍は戦場と言われれば剣と剣がぶつかり、兵士たちが屍を晒す場所を思い浮かべるに違いない。しかし、私は違う。私にとっての戦場は会議室または舞踏会場。そして卓上にあるのだ。

 そしてこの場は三等書記官という私の地位には不釣り合いな戦場である。だが、このような機会は生涯で一度あるかないかであるはずだ。だとすれば私のやるべきことは決まっている。

「勇者を欠いたあなたたちには勝機はない。それを理解した上で、書記官殿は戦いを望まれると? 人間が滅ぶことを望まれるのか?」

 悪魔宰相が悪魔でも見るような目で私を見る。このような目はここに来る前にも受けている。いまさら私がたじろぐ様なものではない。



 勇者が死んだ。

 この知らせを受けた際の反応は人によって大きく分かれた。
 将軍は「あれほどの達人でも魔王には勝てぬのか」と、勇者の武技が魔王に劣っていたことを嘆いた。
 大臣は「武器や防具、どれほどの金を援助したと思っておるのだ!」と、投資した金銭が無駄になったことに怒りを見せた。
 庶民や一般兵士は「魔王には誰も勝てないんだ」、と絶望を口にした。

 この私も勇者の死を信じられなかった。彼が負けるなど考えたこともなかったのだ。それほどまでに彼は強かった。

 魔王軍が誇る四天王を討ち果たした勇者の快進撃は私たち人類にとってまさに快挙であった。

 世界中の国々が軍隊を差向けながらも連敗を繰り返しているなかで我が国の勇者だけが、魔王の配下をやすやすと駆逐していく。王や大臣たちは彼に賭けた。それはすべてを賭けた、というにふさわしく、王国にある様々な武器や防具、道具を勇者に与えた。最後には王国の家々にまで「勇者が欲しがるなら家中のものでも差し出すべし」と、いう命令が出るほどであった。

 この命令によっていくつかの富豪や商家ではタンスに隠した妙薬や宝箱に隠した名剣が勇者へと奪われていった。勇者の進路は少なからず略奪の進路であった。だが、その強さはまさに無双であった。そして文字通り、王国のすべてを背負った勇者は魔王との戦いに向かったのだ。


     

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